作りながら考えたこと 一次情報

沖縄のマリンショップで一番多い問い合わせは「台風」だった

「LINEの返事が溜まってるんだけど、これ大丈夫?」

スタッフにそう言われて、私は「大丈夫」と答えました。溜めていたのは意図的だったからです。

お客様との実際のやりとりは、AIを賢くするための学習データになります。急いで全部さばくより、まず溜めて、あとでまとめて読む。そう決めていました。

2026年6月、その溜まったデータを全部読みました。3,156件あります。

結論:一番多い問い合わせは、AIに答えさせてはいけないものだった

読み終えて、正直ひやりとしました。

いちばん多かったのは、天候・台風による日程変更の相談です。沖縄でマリン業をやっている以上、当たり前といえば当たり前でした。でも重要なのはそこではありません。

その「いちばん多い質問」が、まさにAIに答えさせてはいけない種類の質問だったということです。

もし「問い合わせが多いものから自動化しよう」という素直な発想で作っていたら、真っ先に台風対応をAIに任せていたはずです。そして、どこかで事故を出していたと思います。

実際に多かった問い合わせ(上位6つ)

生のやりとりを読んで整理した傾向は、この順でした。

  1. 天候・台風による日程変更 — 最多かつ最重要
  2. 送迎・アクセスの可否 — エリアによって可否が変わる
  3. レンタル・装備 — 水着は必要か、ウェットスーツのサイズ、身長体重は要るか
  4. 予約手続き — 他媒体で取ったプランのこと、1名参加の可否、LINEが既読にならない不安
  5. 持ち物 — タオルは何に使うのか、といった細かいこと
  6. 集合時間・当日の連絡

3〜5番は、答えが決まっています。「ウェットスーツはこちらで用意します」「タオルはお持ちください」。誰が答えても同じです。ここはAIが答えていい。

1〜2番は違います。その日の海況、風、潮、スタッフの配置、他の予約状況。全部見ないと答えが出ません。 AIが「変更できます」と断言した瞬間、現場が破綻します。

だから、AIの返信は2種類しかありません

実際にAIが送っていた返信30件を確認しました。中身は2種類だけでした。

  • 新規予約の確定通知(予約内容のサマリ)
  • エスカレーション返信(「スタッフが確認次第ご回答します」「お体のことはスタッフが個別に対応します」)

これだけです。

外から見たら「AI、ほとんど仕事してないな」と思われるかもしれません。実際、社内でもそう見えます。

でも確認したかったのは別のことでした。AIが独断で「変更できます」「送迎できます」と答えてしまった危険な返信が、1件でもあるか。

結果はゼロ件でした。

判断が要る内容は、ほぼすべて「AIの返信」と「スタッフへの引き渡し」の2行がセットで記録されていました。仕組みが設計どおりに動いていた、ということです。

「フェイル・ヒューマン」という考え方

私たちが置いた原則は1つです。

迷ったら、人に返す。

AIが自信を持って答えられない、あるいは判断が絡む。そういうときは、無理に答えさせない。人に渡す。失敗するときは人間側に倒れるように作る、という意味で「フェイル・ヒューマン」と呼んでいます。

これは技術的にはとても簡単なことです。難しいのは、我慢することのほうです。

生成AIを触っていると、「もっと喋らせたい」という誘惑が常にあります。実際、指示を少し変えるだけで、AIはもっと流暢に、もっとたくさん答えるようになります。デモとしては見栄えがします。

でも私たちの商売では、流暢な誤答は事故です。謙虚なAIのほうが、賢いAIより価値がある場面がある。 これは実データを読んで、はっきり確信しました。

3,156件を読んで見つけた、宿題

いいことばかりではありませんでした。

未処理として残っていたメッセージの中に、「事故してしまいました」という文言が3件ありました。文脈が分からず、過去に対応済みのものなのか、当時見落としていたのかは、今からでは判別できません。

これは重い発見です。頻度の低い緊急ワードほど、仕組みの穴に落ちます。

いま次に作ろうとしているのは、緊急ワードを検知して最優先でスタッフに鳴らす仕組みです。頻度でいえば3,156件中3件、0.1%以下。効率だけ見れば後回しになる数字です。でも、後回しにしていい種類の3件ではありません。

この話が、あなたの会社に効く理由

業種は違っても、構造は同じだと思います。

  • 問い合わせが多い=自動化すべき、ではない。 多い質問ほど重い判断を含んでいることがある
  • 自動化の線引きは、実データを読まないと引けない。 想像で引くと必ずずれる
  • 頻度の低い緊急事案こそ、仕組みで拾う。 効率の計算からは絶対に出てこない

そして何より、自社のデータを読む時間を取ることです。3,156件を読むのに私は数時間かけました。安い投資でした。

今すぐできる一歩

過去3ヶ月分の問い合わせを、100件でいいので通しで読んでみてください。LINEでもメールでも電話メモでも構いません。

読みながら、1件ずつ2つに仕分けます。

  • 答えが決まっているもの(誰が答えても同じ)
  • 判断が要るもの(その日の状況で変わる)

この2つの山ができたら、AIに任せていいのは前者だけです。後者は、AIには「人に渡す」ことだけをさせてください。

この仕分けさえできていれば、ツールは何でも構いません。


まとめ

  • 自社のLINE 3,156件を読んだら、最多は「台風による日程変更」だった
  • そしてそれは、AIに答えさせてはいけない質問だった
  • 迷ったら人に返す(フェイル・ヒューマン)。流暢な誤答より、謙虚なAIのほうが安全

※本記事の数値は自社データの集計値です。お客様のメッセージ本文は掲載していません。

最悪を想定し、最善を尽くし、中庸を行く。

#AI接客#LINE#観光業#実データ#自動化

読むだけで終わらせたくない方へ

ここに書いたことを、あなたの会社でやるのがスクールです。まずは15分だけ話しませんか。